社会福祉法人 聖風会

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クローバースマイル

2022.03.14

全社協「月刊福祉」4月号に掲載 『働き続けられる職場づくりのポイント』

「新任職員の定着につなげるサポート・育成」

全国社会福祉協議会「月間福祉」4月号に「実践マネジメント講座 PART2 第12回 働き続けられる職場づくりのポイント」として、聖風会の育成プログラムが福祉分野の実際の事例として掲載されました。

記事は聖風会 伊藤俊浩 業務執行理事が執筆しました。

以下の内容は「2022『月間福祉』4月」に掲載された内容となります。

新任職員育成プログラム導入の背景

2006(平成18)年当時、入職3年以内に離職を考える、または離職する新卒採用職員が少なからずいることはわかっていましたが、その理由を客観的に分析してはいませんでした。なぜ辞めたいと思うのか、辞めてしまうのか。離職の客観的要因分析と、その結果を踏まえた「辞めない職場環境づくり」の構築が急務の課題でした。
翌2007(平成19)年、「E式モラール・サーベイ(福祉職場の職員意識調査※1)」を要因分析に活用。調査結果から、新任職員に対する“教育・育成”そして“個別対応”の必要性が課題として明らかになりました。振り返ると、確かにその当時行っていた新任職員に対する教育、育成は画一的なものでした。
画一的な育成から、新任職員一人ひとりの成長に合わせた個別対応による育成をめざし、特別養護老人ホームの施設長、課長からなる6人のプロジェクトチームを結成。検討の末にできあがったものが、新任職員研修簿を活用した新任職員育成プログラムです。

新任職員研修簿(Do!簿)の特徴

新たな新任職員育成プログラムは、ひとりの新任職員に対し、1年間専任の先輩職員(トレーナー)がついて1対1で「Do!簿」(図参照。以下、Do簿)の内容に基づいて育成指導を行うもので、大きく3つのセクションで構成されています。

ひとつめは、入職時から1年間の教育スケジュールです。4月の入職時点で、自分が1年間で学ぶべき、身につけるべき内容がすべて把握できるよう一覧表になっています。また、1か月、3か月、6か月、9~12か月と、それぞれに具体的テーマを設け、達成すべき目標が何かを理解しやすくしてあります。例えば、1か月めは、「職員としての基本的な心構えと態度、技術を身に付ける」、3か月めは「利用者の日常的な生活を支える」、6か月めは「先輩職員の指導のもと、決められた利用者を担当することができる」、9~12か月は「利用者個別のケアプランを立案することができる」等です。

ふたつめは、チェックリストです。学ぶべき項目と時期が具体的にチェック形式で記されています。チェック項目は270ほどあり、内容をA~Jに分類(A「職員の基本的な心構え、知識、技能」32項目、B「サービスマナー」14項目、C「食事の準備と後片付け」28項目、D「ご利用者の尊厳を保つ排泄介助のために」24項目、E「安全・快適に入浴介助するために」40項目、F「機能訓練」
35項目、G「緊急・体調不良時に備えて」37項目、H「清潔整容」26項目、I「認知症対応」15項目、J「業務理解」18項目)しています。チェックは、自己評価(指導を受けて理解している場合は“○”を、ひとりでできる場合は“◎”を記入)のみではなく、トレーナーがひとりで任せられると判断し、◎を入れた段階(指導をした場合は○のみ。ひとりで任せられると判断した場合に◎を記入)
で、その項目についてひとり立ちと判断します。翌年の3月までにすべての項目にトレーナーのチェック欄に◎が入るよう、できない項目については、達成目標月を過ぎてもクリアできるまで丁寧に何度でも指導を繰り返します。
3つめは、育成シートです。入職後1か月間は、毎日「今日を振り返って」の欄と「明日を迎えるにあたって」の欄に記入します。トレーナーがその内容を確認して「コメント」欄に記入して返します。悩みや相談ごとなど、内容によっては、コメントでの返答のみならず、すぐに面談を行い心理的安定に向けた支援を行います(最初の2週間は必ず面談を毎日実施)。支援は、トレーナーひとりで行うこともありますが、トレーナーの上司と内容を共有し、面談にはその上司も参加するなどして支援を行うことも少なくありません。
その後は、1か月、3か月、6か月、12か月たった時に振り返りを行い、その内容を記入します。そして、トレーナーが最初の1か月同様に「コメント」欄に記入し、面談を行います。
Do簿を活用した育成プログラムのメリットは、得意な項目とそうではない項目が新任職員ごとに具体的に把握できるようになり、苦手なものも無理なく個々に合わせた育成ができるようになったこと、そして、各トレーナーによる教え方のばらつきや教え忘れがなく育成内容の標準化(特に技術については、手順ではなく、ケアの考え方をメインに伝える)が図れたこと、結果として、新任職員が心理的な不安を取り除きながら専門職としての自信とプライドをもって介護の仕事を続けられるようになったことです。

トレーナーにとっても学びの場

Do簿をもとにした育成プログラムは、トレーナーにとっても大きな学びの場となりました。日々の育成については、トレーナーがひとりで悩み、抱え込むことのないよう、Do簿に記載されているチェック項目の進捗状況や面談記録をトレーナーの上司(最終的に施設長まで確認する)が定期的に確認し、必要に応じて助言や指導を行い、時にはトレーナーが集う場を設け、お互いの悩みや課題を相談し合いながら解決につなげています。これはトレーナーにとっても自らの専門職としての技術を振り返る貴重な時間となり、後進育成の難しさを体感しながらも、それ以上に人を育てる喜びを感じてくれています。これは、よりよいチームワークを形成するうえで非常に役立つ経験ではないかと思っています。

グローバル職員にも対応

新任職員教育プログラムの導入から10年以上が経過しました。Do簿の内
容は、不定期ながら見直しを行い、その時に合った内容にしています。
最近の見直しでは、近年新卒採用をしているグローバル職員(外国籍の介護職員)向けにすべての漢字にルビをふりました。
また、グローバル職員に対しては、特に1年という期間での終了を優先とせず、すべての項目がクリアできることを最優先とした育成を行っています。
グローバル職員には、将来的に当法人で学んだ介護技術や人材育成プログラムを母国で広めてもらい、聖風会の介護を世界に広めてもらいたいとの願いを込めて育成を行っています。

新卒採用職員の離職ゼロをめざして

2019~2021年度の3年間に採用した新卒採用職員の離職はありませんでした(表)。これは、介護福祉を学ぶ学校そのものの数が減り続け、介護の世界をめざす若い人材の確保が難しい時代に、大きな財産となりました。2006年当時の課題であった入職3年以内で離職していた新卒採用職員が、今では次世代を担う職員として第一線でがんばっていることは大きな成果です。

また、コロナ禍の影響もあり、他業種から無資格・未経験で入職するキャリア採用介護職員がこの1~2年で増えました。新任職員育成プログラムの活用により、「介護職として本当に務まるのか」などの不安材料を取り除きながら、介護職としての基本的な知識、技術を身につけ、仕事に誇りとやりがいを感じつつ専門職としてスキルアップにはげむ姿が見られます。
この新任職員育成プログラムは、採用イベント等で学生の皆さまに紹介していますが、入職後の指導、育成に不安を抱えている学生の皆さまからたくさんの問い合わせを毎回いただいています。育成プログラムに魅力を感じて採用試験に臨んでくれる学生の方も年々増えており、春には私たちの大切な仲間になっています。

《注》
※1  エイデル研究所と全国社会福祉協議会中央福祉人材センターとが共同
開発した職員意識調査

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